Happy☆Chocolate 前編

【バレンタイン企画小説】

 

 

身だしなみ、良し。
顔、良し。
髪型、良し。


―――笑顔、良し。

 

今日は、晴天。
昨日は雨だったが、それが嘘だったかのように綺麗な青空が広がっている。

何故、こんなに気合が入っているかって?

今日は、世で言う「バレンタイン・デー」なのだ。


俺、吉岡 拓海(よしおか たくみ)は現役高校二年生。
思春期真っ盛りの俺の心が浮きだっても仕方ないと思う。
と言っても、男子校に通う俺にチョコなんて夢のまた、夢って感じだけど・・・。

(も、もしかしたら、近くの女子高の子から貰える可能性だって・・・)

なんて、淡い期待を抱いている。

俺の通う、西本高校(男子校)から駅一つ挟んだところにある百合華(ゆりか)女子高。
帰り道や、駅で出会う可能性だってあるんだ。
カップルだって何組かいるって話だ。

(よし!気合入ったぞ!)

いつも以上にネクタイを綺麗に結んで、家を出る。
遅刻しそうになることが多い俺にしては、珍しい時間帯だ。

ここまで期待しといてあれだが、俺の容姿は特に良い訳ではない。
別にどこにでも居そうな学生だ。
今まで告白されたこともなく、したこともない。
だが、恋愛に夢を見ることはみな一緒だ――と思う。

家を出てから、数分だが気持ちがそわそわして落ち着かない。
さり気なく辺りを見回してみる。
――が、いつもと変わらず、出勤途中のおっさんや、同じ学生がチラホラいるだけだ。

小さくため息を吐いて、少しだけガッカリする。
(もしかして――って思ったけど・・・)
家を出て、女の子が玄関先で待ち伏せしてたり、とか。
そんな淡い期待もすぐに消えてしまった。

(そんな調子のいい展開ないか~・・)

分かってても少し残念だ。


そこへ、肩を軽く叩かれる。

「!!」

一瞬嬉しい想像が浮かぶが、勢いよく振り向いた先にいた顔を見てまたガッカリする。

「――んな、あからさまにガッカリすんなよ」

俺の肩を叩いて言う奴は、同じが高校に通う友人、浜辺 祐二(はまべ ゆうじ)。

「べ、別にガッカリなんかしてねぇよ・・」
俺は、さっきまで期待してたのがバレたかと焦り、慌てて誤魔化す。
「いやいや、あんな可愛い笑顔のあとに、口をへの字に曲げられたらなぁ・・」
「う、うるせえなー・・間違えたんだよ・・」
やっぱりバレてるか。恥ずかしくなり目線を逸らす。

「ふぅん・・・・・・。ごめんなー女の子じゃな・く・て」
「―――!!」

ニヤッと笑う祐二は俺の肩に腕を乗せて顔を近づけてくる。
そのまま俺の耳元にフッと息を吹きかける。

「ギャア!?き、キモいことすんなよな!」
俺は、むず痒さに耳に手を押さえ顔を真っ赤に染める。
そんな俺の反応に満足したのか、祐二は一歩離れてニヤニヤ笑う。

(くっそー!祐二のヤツ、俺が耳弱いって知った途端にこんなことばっかしやがって!)

俺が耳が弱いって知られたのは、つい最近だ。
そして、本人の俺も初めて気付いたのだ。
祐二はとにかく、スキンシップが多い。
男同士でジャレてて何が楽しいのか、何かとくっつきたがる。
最初は戸惑ったが、そーゆー奴なんだって思えば平気だ。

「で?やっぱお前もチョコ欲しいの?」
どこか、呆れたように聞いてくる祐二。
なんだよ、イイじゃん別に・・・。
「・・ん、まあ貰えれば嬉しいじゃん?」
男として、バレンタインの日にチョコ貰えたら素直に嬉しいと思う。
ただでさえ、男子校という男だらけの中にいたら尚更だ。


「そうか?俺はいらねー」

 

・・・・・・・・・・。

そうだった。そうですね、お前なら、そう言うだ・ろ・う・な!
ムッと思うと同時にため息が漏れる。
なんせ、この男。モテモテなんだ。
男子校にいるはずなのに、結構な頻度で女の子から告白される。
一体、どこから情報を知るのか、家付近で待ち伏せされることもある程だ。
まったく。こいつにはチョコを貰える喜びとかないのか?

「大体さー、朝から家の前に知らねえ女がいてみろよ?お前だって引くぜ」

(引かねーよ!!正にそれを夢見てたんだよ、俺は!!)

ムカムカ―とムカついてくるが、モテる奴は考え方も違うんだろう。
でも、いいよなー。俺も一度でいいから言ってみて―なぁ・・。

(想像もつかないけど・・・)

はあー、と肩を落として歩く。
学校はもう目の前だ。なんもなしかー。
あとはもう、放課後に賭けるしかない。

 


◇◇◇

 

下駄箱のところへ行き、上履きに履き替えようと扉を開ける。
と、横からドサッと音が聞こえた。
「げ」
と、同時に祐二の声も聞こえた。
「?なんか落ち―――」
目線を下に向けると、小さい箱に綺麗な包装がされている。

「・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・。」

お互い無言で落ちた箱を見つめる。
しかも、それは一個ではなく五個ほどあった。

(えーっと、もしかして・・・・)

口の端が引きつくのが分かる。
「――お、とこ、から・・・??」

箱から目線が逸らせず、じっと見つめてしまう。

すると、祐二は何事もなかったかのようにソレを拾う。
「・・・多分。まあ、でも一年だろ」
「え、なんでわかんの?」
学年でも書いてあんのかな?
箱から祐二に目線を移すと、苦笑いしながら答える。
「や、去年はもっとあってさ。本命いるって断ったら、なくなったから」
「去年もかよ・・・・って、おまえ本命!?」
何気なく言われた言葉に、驚いた。

(祐二に本命なんて聞いたことないぞ!?)


驚きに目を見開いて固まる俺に、祐二も自分の発言に驚いたようだった。
ハッとして口元を押さえている。
「・・・・んなこと言った?」
「言った!」
「・・・・・・・聞き間違いだ」
「言った!言ったよ!!」

まじかよ、祐二に本命・・・。
全く見当つかない。
俺、これでも結構祐二と仲が良いと思ってたけど・・・。

(なんか、ショックだ・・・)

「ど、どんな子??」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・あほ。」
長い沈黙の後に、一言。
「・・・アホなの?その子」
「うん、すっげーアホ」
「へー・・・・」
「・・・・・・・」

「変わった趣味だな、お前」
「・・・・・知ってる。」

シーンと沈黙が流れる。
(こいつの好みとか知らないな。そーゆー話したことないな・・・)
ふとそんな疑問が浮かぶ。
今まで深く考えたことなかったが、あれだけモテる奴なんだ。彼女がいてもおかしくない。
というより、いないほうがおかしい。

「―――俺の本命、気になる?」
「――え」

そこへ、チャイムが鳴る。
祐二も無言で教室へと向かう。


(気になる?って、気になるだろう普通・・・)


授業が始まってからも、俺は集中できずにいた。
あの祐二が好きになる子か・・・。
どんな子なんだろう。
やっぱ可愛いのかな。それとも綺麗系?
あー、あいつそんな素振りちっとも見せないからわかんねーっての!

先生の声も耳を素通りしていく。
結局俺は授業中ずっと、右の列の一番前に座る祐二の背中をじっと見ていた。

 

◇◇◇


気付いたら、もう放課後になっていた。
今日はほんとに集中できなかった。
本来だったら、放課後に・・なんて期待も今ではどうでもいい。
(どうせ、貰えっこないし・・)
今朝の祐二の本命話の方が重要のように思えてきた。

(それにしても、アホ・・・か)

祐二から聞いた本命の子情報。
もっと他にないのか?
普通好きな子のいいところとかさぁ・・・。
あ、天然って意味なのか?
でも、祐二のやつの趣味とは思えないな。そーゆーの嫌いそうにみえるけど。

「おら、帰るぞ」
後ろからコツンと頭を叩かれる。
振り向くと、少し不機嫌そうな祐二が立っている。
「あ、うん・・」
俺は急いで帰る支度をする。
すると、俺達の後ろから小さな声が聞こえた。

「ぁ、ぁの・・・浜辺先輩」

見ると、背の小さい男の子が顔を赤くして祐二を見つめていた。

(――あ)

俺でもピンときた。
といっても今朝の話を聞かなきゃ多分、分かんないままだけど・・・。

きっとこの子は祐二に告白する気なんだろう。
(小さいし、見たことないし、一年かな・・・)
今朝の話を聞いてても実際にみると、変な感じだ。

「・・・・なに?」

横から聞こえた声は、いつもの祐二からは想像つかない程の低い声だった。
チラリと横目で祐二を見ると表情はなく、どこか冷たい印象さえ与える目だった。

「・・あ、あの・・・その・・」
もじもじとする少年は、チラチラと俺を窺っている。

(――あ、そっか・・)

俺ってなんて気が利かないんだ。
そりゃ、第三者がいると言いにくいよな。

心の中でごめんなー、と謝り、教室から出て行こうとする。

「あ、俺外で――」

外で待ってる、と言おうとしたところで祐二から腕を掴まれる。

「行かなくていい」
「・・え、でも」
「行くな」

ぐっと力強く掴まれ、俺は顔を歪める。
(でも、この子は・・・)
鈍い俺でも分かるくらいだ。聡い祐二にはすぐにわかるだろう状況だ。

俺は戸惑いつつ、少年のほうを見ると少年も同じようで困惑した表情をしている。


「悪いけど、俺本命いるから。」

きっぱりと祐二は言いきると、俺の腕を掴んだまま教室から出ようとする。
何故か、俺の方が焦ってしまい出る直前に少年にもう一度目線を移した。


その少年は顔を赤くして、俺を睨んできた。


(―――え!?な、なんでぇ??)

そのままずるずると祐二に連れられて外へ出る。
その間も、今も祐二はずっと無言だ。

ってか、さっきのヤツはなんで俺を睨むんだ?
振った祐二を睨めよな~・・・。

それにしても、まさか友人の告白される場所の遭遇するとは・・・。
しかも、男の・・・。

「―おい、祐二。腕放せよ」
黙ってた俺だが、結構な力で掴まれている。
体格はあまり変わらないが、力はどうやら祐二の方が強いみたいだ。
「・・・・」
祐二は俺の言葉に反応せず、そのまま歩く。

「おい!祐二、腕が痛いって!」

痛みにイラついた俺は大きな声で言う。
すると、目の前の祐二が止まり俺の方に振り向く。
振り向いた顔は、先程と違い表情があるものの、怒りの表情だった。

(って、お前も怒ってんのかよ!?)
先程の一年坊主といい、祐二といいなんで怒る矛先が俺なんだ!?
「な、なんでお前まで怒ってんの?」
「・・・お前まで?」
聞き返す祐二は気付いていないようだ。
「あー・・・さっきの子。教室出る時にめっちゃ睨まれた・・・」
俺は関係ないはずなのに。
「・・・・ああ、気付いたんだ」
「――は?なにが?」

小さな声で呟いた言葉は俺の耳には届かなかった。
聞き返すも、祐二は首を振り何も言わない。

それにしても・・・。
「男から告られるってマジだったんだなー」

「・・・・なに、嘘だと思った?」
「そーじゃねーけど、なんか現実味なかったっつーか」
ま、確かにここ男子校だし、全くないとは言えないけど。
初めて見たなー・・・。

ぼんやりと考えながら歩き出す。
横を歩く祐二が、俺のほうをじっと見ているのに気付く。
「?なに?」
「・・・別に」
そう言うも視線は俺から外れない。
「・・・なんだよ」
「・・・・」

「あーもう、なんなの?さっきから」
先に痺れを切らした俺が祐二に突っかかる。
眉間に皺を寄らして恐い顔で俺を睨んでくる。

「・・・・・気になんね―?」

「は?なにが?」
「俺の本命」

ドキッとした。
気になる、に決まってる。
だって、今日一日中ずっとそのことばかり考えてたんだから。

「気に、なるよ。そりゃ・・お前に本命いるって知らなかったし」
「どんな風に気になる?」

―――どんな風?

「そりゃお前、可愛い子かなーとか、祐二がその子のどこを好きなのか、とか・・」

「どんな子かなって思うだろ。てか、好きな子に対してアホって・・・」


そうそう!普通は良いところを言うだろ?
優しい、とか。笑顔が可愛い、とか。・・・・ベタかな俺。

「もっといいところは?ないの?」
そんな子に、祐二はもったいねーよ。

・・・ん?あれ。違うか。
その子に、祐二がもったいない、か?
あれ??どっちだ?

混乱してきた俺が頭を悩ませてると、

「アイツのいいところは俺だけが知ってればいいんだよ」

フッと小さく笑った祐二を俺は見逃さなかった。
あんなに嬉しそうに笑う祐二、見たことねーな・・・。

(そんなに、好きなんだ――)

なんとなく、置いてけぼりな気持ちになる。
でも、コイツのことだ。告白すればすぐにOK貰えそうなのに・・・。

「こ、告白は・・?したのか?」
なんとなく、緊張してドキドキする。
「―――出来ない。きっと、無理だから・・」

―――え。
無理・・・って。なんで?あんなにモテるじゃん。自信ないのか?
「そ、そんなのわかんねーじゃん・・祐二モテるし。案外OKかもよ?」
「俺がモテるのと関係ねーよ」

そ、そうなのか?
女の子って格好いい彼氏とか喜ぶんじゃねーの?
というより、祐二の好きな子は見た目で判断しない子なのか?

(なんだよ、アホって言ったってすげー良い子じゃん・・)

アホって言ってても、その表情はどこか柔らかい。
きっと、すげー好きなんだな。その子のこと。

なんだか、俺は胸がモヤモヤしてるのに気付く。
(なんか、気持ち悪ぃな・・胸やけ?)

無意識のうちに、胸の辺りのシャツをキュッと掴んでいた。

 


 

後編へ

 

思いつきで企画小説書いてみたwダラダラ続く・・・。

H22.2.14